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「これは自転車を標的とした『治安維持法』だ!(1)」
出たな妖怪。
それも一見、耳当たりよく、柔らかでたおやかな衣をまとって、我々自転車人の前に現れたぞ。
件の警察庁「自転車対策検討懇談会」の話だ。11月30日発表で、懇談会は次のような提言を行った。これは来年早々の通常国会に「道路交通法改正案」として、提出されるのだという。
我々に関係ある部分を要約すると、次のとおり。
自転車は、
(1)子どもや高齢者、買い物目的などで の利用の場合
(2)交通量が多く車道が特に危険な場合 の二つの場合に限り、歩道での通行 を認める。
詳しくは警察庁のサイトを見ていただきたいが(「自転車の安全利用の促進に関する提言」について)、一見すると「あれ? 前からそうではなかったの? これって当たり前のことじゃない。老人子どもは危険だし、歩道でもいいよね」などと思われがちだが、そこが危ない。「提言」の中身をつぶさに見ていただければ分かるが、この提言は「自転車は世界各国を見ても車道通行が通常である」というようなことにきちんと言及しているようなフリを見せながら、そこに「日本独特の自転車利用のあり方」などを論い、その上で、危険な条項がチラチラと「衣の下の鎧」として散見できるのである。
いいですか、たとえば、一番の例をあげるならば、次の部分だ。
〈第4、2(4)「自転車が車道を通行することが特に危険な場合は、当該道路の自転車通行を禁止することなどの措置を講ずること」〉
お分かりだろうか。
「特に危険」と判断されるならば、自転車は、車道通行を禁止されてしまうのである。
一見、自転車のために必要な措置だから、と、勘違いされがちな本条項だが、その「特に危険」という判断は、誰が行うのか、そして、その「特に危険」は、どこまで解釈が可能なのか。そこの部分があえて無視されている。だが、その判断の主体が警察当局になるであろうことは、火を見るより明らかだ。
また、その書き方において、「特に危険な場合の措置」は、あくまで「例外的措置」のように見えるのだが、それが「例外」である保証はまったくない。
いや、この「例外」は、必ず「将来の標準」になるために用意されていると見たほうが妥当だ。 何しろ、警察は、こと自転車に関しては、「例外」を、実質的な「標準」に、「標準」を実質的な「禁止条項」にしてきた、大きな実績があるのだ。
1978年の悪夢を思い出してみれば分かるだろう
悪名高い道路交通法第63条の4は「自転車は原則的には、車道の左側を通行するべきもの、しかし、指定された『自歩道』だけは歩道通行可」と定めている。
つまり、自転車の歩道通行はあくまで「指定された歩道だけの例外的措置」だったのだ。ところが、その結果、78年以降、この国において実際には何が起きただろうか。
日本のあらゆる歩道が、自転車で溢れ、歩道の状況は絶望的な混沌状況に陥ってしまったのは、誰もがご承知のとおりだ。自転車は実質的に「歩道を走るべきモノ」となり、ママチャリという奇妙な歩道専用車が生まれ、本来走るべき車道からは、実質的に排除されてしまうことになった。警察官から「キミキミ、危険だから、歩道に上がりたまえ」と言われるのは、自転車乗りならば誰もが一度は経験したことがあるはずだ。
また周囲の一般的な人々に聞いてみるがいい。
「自転車はどこを走るべきものですか?」もしくは「自転車でどこを走っていますか?」と。
100人のうち80〜90人程度は「歩道です」と答えるはずだ。なぜなら「車道は危険だから」。
おかしいじゃないか。
あれから30年も経ったはずなのに「車道は危険」のままなのである。そもそも78年の改正法は、いつかは自転車は世界標準の如く車道に戻すはずの緊急避難的な暫定措置だった。道路インフラが整い、自転車の走行空間が確保され次第、自転車は車道に戻るはずだったのだ。
ところが、それが30年放置され、あろうことか、その30年後の今「自転車は歩道」が保証されるかの法案が提出されようとしている。
本末転倒なのである。だが、例外を標準に、標準を実質禁止に。これが日本の警察の自転車に対する態度なのだ。
この改正道路交通法が国会を通過するならば、必ず自転車は実質的に「歩道だけしか走ってはならないモノ」となってしまう。
我々は騙されてはいけない。
この提言は、実質的に「自転車の車道からの締め出し」を狙っている。
そもそもの原則論で言おう。
「特に危険な道路」の場合、当該の道路が「特に危険」であることを改善するためにはどうすればいいだろうか。
当たり前のことだが「危険の元凶になっているものを排除する、またはそこに対策を講じる」のが、至極当然の話だろう。つまりそういう不良道路に関しては、クルマの方を規制するのが当たり前なのである。
「危険な道路ならば、安全な道路にすればいい」のだ。
ところが、本提言では逆を言う。すなわち「自転車を通行不可にする」である。本末転倒と言うべきか、言語道断であろう。すなわち本提言の「第4、2(4)」は、立脚点からしてまったくの誤りなのである。
だが、我々にとって、何より恐いのは、今後、この「第4、2(4)」がどのような適用のされ方をするかだ。「特に危険」な道路とは、どのような道路か。
おそらくは都内の幹線道路はほぼ全部である。なぜならば、自転車の通行について何の知識もない無法ドライバーが跋扈する都内の幹線道路は、事実として「特に危険」だからだ。これは皮肉でも何でもなく、単なる「事実」を言っている。
そして、その危険な道路について、どのような方策が講じられるか。 今回の提言によれば、当然のことながら「当該道路の自転車通行を禁止することなどの措置を講ずる」のである。つまり都内の幹線道路は今後、実質的に自転車通行禁止になる可能性が非常に強いのだ。
このコーナーの前身となった短期集中連載「道路は誰のものですか?」(05年6月号〜10月号)を思い出していただきたい。あの連載の発端は「警察庁に、自転車・車道締め出しの動きがある」という内容を事前にキャッチできたことにあった。あの時には、何だかんだで、彼らはいったん法案提出をあきらめたように見えた。だが、甘かった。
前回の中心メンバーと、今回の懇談会の「警察部分」は、ほぼ同一人物たちである。
亡霊は生きていた。
この法案は、自転車をターゲットにした「治安維持法」なのである。
続きはバイシクルクラブ 2007年1月号 168ページの「現場から生中継」で。
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